ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第85弾!!健さんの名演に中国全土が震えたアクション大作

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 皆さんはもう、ジョン・ウー監督の最新作「マンハント」(2月9日公開)をご覧になっただろうか。中国の人気俳優チャン・ハンユーふんする国際弁護士が殺人事件の容疑者に仕立て上げられ、それを福山雅治演じる敏腕刑事が追う。大阪を中心に全編日本ロケを敢行、白い鳩が舞い、スローモーションで二人のアクロバティックなガンアクションがさく裂! 全世界のファン待望の、ウー印の“活劇祭り”である。

 

 ところで、昨年のヴェネチア国際映画祭の会見にて、ジョン・ウーは本作についてこう語った。「永遠の憧(あこが)れであり、偉大なる俳優、健さんにこの映画を捧げたい」。“健さん”とは無論、不世出の大スター・高倉健のこと。「マンハント」は、’76年に健さんが東映独立後に初主演した「君よ憤怒(ふんど)の河を渉れ」の再映画化なのだ。
 

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 西村寿行の同名ハードボイルド小説をもとにしたこのリベンジ・アクション大作で、健さんは、変死した代議士を他殺の線で単独捜査していた折に突如、強盗傷害容疑で連行されるエリート検事の役。その検事を執拗に追うも、途中で彼の無実を知って手助けする刑事を原田芳雄が演じている(「マンハント」では福山雅治の役に該当)。監督は、東映時代から「荒野の渡世人」(’68)、「ゴルゴ13」(’73)、「新幹線大爆破」(’75)などで健さんとタッグを組んできた佐藤純彌。二人はほぼ同時期にフリーとなり、この「君よ憤怒の河を渉れ」の後には角川映画「野性の証明」(’78)も共にしている。
 
 

 さらに本作は、大映の名物社長であった永田雅一が“永田プロダクション”を興して製作を担当、さらに(’71年末に倒産した大映の経営を引き受けた)徳間書店創業社長・徳間康快が製作協力に名を連ね、松竹が配給するという座組のもと、公開された。健さんは「新幹線大爆破」に続いて従来の任侠路線のイメージから脱却すべく、ワナにはめられ、無実の罪をかぶせられて、逃走しつつ真犯人を捜す役に入魂で身を投じている。
 
 

 洋画のスケール感に対抗しようと、次から次へと主人公が窮地に陥り、(無理やりにでも…)見せ場が用意されており、その少々背伸びをしたエンターテイメント志向がいま観ると微笑ましい。(着ぐるみとわかってしまう…)熊に襲われるのはご愛嬌(あいきょう)だが、新宿の雑踏を無数の馬(こちらは本物!)が疾走する場面には度肝を抜かれ、潜入した精神病院で患者衣を身に付け、黒幕を追い詰めるため“一芝居”打って出るシーンでは「健さん、よくぞそこまで…」という名演を見せる。
 
 

 さて、当時“イケイケ”だった徳間康快は、’78年10月、中国の8都市で「日本映画祭」を自費で開催し、本作も上映。選んだ作品は各地へと配給、一般公開もされた。中でも、本作は「追捕」のタイトルで“プロレタリア文化大革命”後、初の外国映画として公開され、エンターテイメントに飢えていた人々の心をつかみ、一大“高倉健ブーム”を巻き起こして国民的大ヒットにつながったのだ! 無論、ジョン・ウーの新作「マンハント」の原題も「追捕」。文化の伝播(でんぱ)とは、実に面白いものである。

轟夕起夫(映画評論家)

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第84弾!!八甲田山の悲劇の真実を語り継ぐ意志に胸を打たれる

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 「天は我々を見放した」の名台詞で知られる映画「八甲田山」(’77年)は、今観ても、いや、今だからこそ余計に興奮する。

 

 製作に映画「砂の器」の野村芳太郎監督、多くの黒澤明監督作を手がけた脚本家・橋本忍(脚本も兼任)、東宝の名プロデューサー・田中友幸が名を連ねる。撮影の木村大作、音楽の芥川也寸志のほか、「ハチ公物語」の神山征二郎が助監督、「理由(2004)」「この空の花 長岡花火物語」の加藤雄大が撮影助手時代に参加。そして、高倉健、北大路欣也、三國連太郎、緒形拳といった、絵面だけで十分重厚さが出る顔ぶれ。にもかかわらず、彼らが雪山をひたすら歩いているシーンをロングショットでとらえ、アップになっても暗くて顔の判別がつかないという、ぜいたく極まりない起用法がとられている。1シーン、1カットから撮影の苦労がにじみ出ている。実に3年の歳月をかけて本作に挑んだ彼らの“本気”に心震える思いだ。
 

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 なにせ彼らが挑んだのは、1902年に起こった登山史上最悪といわれる山岳遭難事故「八甲田雪中行軍遭難事件」。日露戦争開戦に備え陸路の確保をと、青森歩兵5連隊雪中行軍隊210名が青森から八甲田山麓の田代温泉へと向かったところ、悪天も重なり199名が犠牲になった。直立不動のまま凍って息絶えた兵士たちの姿はあまりにも衝撃的だ。原作は、長年同事故の取材をしていた地元紙記者・小笠原弧酒の著書などから小説を書き上げた新田次郎の「八甲田山死の彷徨」で、登場人物名は仮名、一部フィクションも加えられているという。そこで今一度、事故を検証しようと、2007年から実に7年の歳月をかけて関係者に取材し、制作されたのが「ドキュメンタリー八甲田山 世界最大の山岳遭難事故」である。
 

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 ドキュメンタリーとはいえ、当時の状況がドラマで再現されており、その撮影が相当、気合いが入っていることが映像から見て取れる。長時間吹雪にさらされ、俳優の衣裳に降り積もった雪の量は、過酷過ぎて脱走した俳優がいたといわれる映画版にも匹敵する迫力。吹雪シーンもCGを使わずに撮り上げ、凍傷になってしまったスタッフが続出したという。そこに、当時録音された生存者の証言テープや、専門家の状況説明が入る。行軍隊の199名の犠牲者に加え、遺体回収に向かった捜索隊からも692名の凍傷患者が出たことが、雪山の恐ろしさを強調して余りある。
 

 映画では雪山で錯乱状態となって服を脱ぎ出す兵士も登場し、雪山登山の知識のない者にとっては何が起こっているのか分からないシーンがいくつかあるが、本作によると、人間は通常の体温から2℃下がっただけで意識の混乱が起き、−4℃で筋肉硬直、−5℃で心臓停止に至るという。いわゆる「低体温症」の症状。映画ではその低体温症を起こした人たちの姿が克明に描かれていたのだ。
 

 ご存知のように、八甲田山は今や道路が整備され、車で訪問できるようになった。犠牲者は天からどんな思いで眺めているのだろうと、つい考えてしまう。だが、陸上自衛隊は当時の教訓を胸に、今も遭難ルートでの演習を続けているという。一方で、残念ながら、毎年のように雪山での遭難事故は絶えない。宮田聡監督は本作を制作した意図について、次のようなコメントを残している。「現代の登山においても有効な情報を伝えたい」と。襟を正して観たい、渾身(こんしん)のドキュメンタリーである。

中山治美(ライター)

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第83弾!!野村芳太郎、市川崑。名監督の演出で「八つ墓村」を見比べよう!

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 映画ファンなら、「もし、この原作を○○監督と△△監督が撮ったらどう違うだろう?」と夢想することがあるだろう。名作「砂の器」の野村芳太郎と、「犬神家の一族」をはじめとする“金田一もの”を撮った市川崑という、日本映画界を代表する名監督二人が、同じ原作をもとに撮った作品。それが、横溝正史の「八つ墓村」。両監督の原作へのアプローチや演出スタイルの違いが浮き彫りになった、絶好の“見比べ作品”だ。

 不幸な境遇で育った青年・寺田辰弥が、実は地方に住む権力者の非嫡出子とわかり、生まれ故郷へ戻ることに。その村は八つ墓村と呼ばれ、辰弥の父は二十数年前に村人32人を殺害し、行方不明となった田治見要蔵であった。そして、辰弥の周辺で次々と奇怪な殺人事件が起こり始め…。同じストーリーでありながら、かなり印象が異なる作品に仕上がっている野村版と市川版の「八つ墓村」。それでは、この2本の違いを“八つの墓”ポイントで楽しんでみよう!

一の墓「作風」
 “金田一もの”と言うと閉鎖的な村や土着的なおどろおどろしさが代名詞だが、野村版はこれを一歩押し進めて、伝奇的な要素を持つホラー映画に仕立てている。終盤の鍾乳洞で辰弥が犯人に追われる様は、まるで「悪魔のいけにえ」のような狂気と恐怖にあふれている。一方の市川版は、「犬神家の一族」から「病院坂の首縊りの家」まで5本の金田一映画を撮っている監督だけに、加藤武演じる警部の「よぉし、わかった」などのお約束もキープ。ほとんどの映像化作品で割愛されてしまう辰弥の恋人的存在・里村典子が登場するなど、数ある「八つ墓村」の映像化作品の中で最も原作に近いと言えるだろう。
 

二の墓「時代設定」
 市川版は原作通りと言える昭和24年の時代設定で、辰弥の職業は石鹸工場員と渋い。舞台となる八つ墓村にも田舎の因習が色濃く残されていて、“何かが起こる感”満載である。野村版は前年の’76年に公開された「犬神家の一族」と差別化を図りたかったのか、時代を思い切って現代(公開当時の70年代)に変更。辰弥の職業も空港の航空機誘導員というハイカラなものになっている。とはいえ着物姿の人物も多く、人が死ぬたびに「たたりだぁ~」と言い出すなど、現代人とは思えない迷信深さが特徴。
 

三の墓「金田一耕助」
 「八つ墓村」の金田一耕助は、実はほかの作品に比べて影が薄い。というのも、原作は主人公である辰弥の一人称で書かれているため、出番そのものが少ないのだ。だが、市川版はそんなことは気にせず、金田一はあちこちに顔を出して活躍する。ヨレヨレの着物にぼさぼさの髪の毛という原作に近い金田一像を作り上げた市川監督ゆえ、豊川悦司の金田一もそれに準じている。ただ、豊川版金田一は早口でよくしゃべる。そして、歴代金田一の中でも異彩を放っているのが野村版。金田一を演じるのは“寅さん”こと渥美清! しかも、登場シーンは麦わら帽に白いシャツと、まるでカールおじさんのよう…。おっとりとした口調でおよそ探偵らしくないが、実は公開当時に横溝正史が「イメージ通り!」と絶賛コメントを残している。
 

四の墓「落ち武者狩り」
 事件の原点となるのが、村に流れてきた8人の落ち武者を、欲に目がくらんだ村人が惨殺する400年前の事件(原作では落ち武者が財宝を隠し持っていたという設定がある)。市川版は雨の中で仮面をつけた村人が竹やりで突き殺していくという、ドラマティックさとリアリティを重視した演出。一方、野村版は祭りの席で落ち武者に毒を盛った酒を飲ませた上で襲う。村人の非道さを前面に出し、落ち武者の腹を割き、首を切り落とすなど、スプラッターホラー並みの凄惨な殺害シーンが展開! 見ものは、田中邦衛の切り落とされた首が飛んで村人に噛み付くシーン。もう完全に「死霊のはらわた」である…。
 

五の墓「32人殺し! 山﨑努VS岸部一徳」
 CMで使われ、流行語になった「たたりじゃ、八つ墓のたたりじゃ!」が出てくるのが、逆上した要蔵が村人32人を次々と殺害していくシーン。要蔵を演じるのは、野村版=山﨑努、市川版=岸部一徳という両名優だが、その狂気じみた熱演は今も語り草となっている。頭に鬼の角のごとく2本の懐中電灯をさし、片手に日本刀、もう片手には猟銃を持ち、出会う村人を皆殺しにしていく。山﨑努は特殊メイクを施して鬼の形相となり、ここでも超絶スプラッターが展開。祝言の場に乗り込み皆殺し…一家だんらんに乗り込み寝ている赤ちゃんまで皆殺し…逃げる老婆を井戸に突き落として、とどめに猟銃一発…と、当時の子どもたちに深〜いトラウマを残した。市川版も負けじと、斬られ、撃たれた村人から吹き出す血に並々ならぬこだわりを見せている。
 

六の墓「双子の老婆 市原悦子VS岸田今日子」
 要蔵と並んで強烈なインパクトを残すのが、田治見家のご意見番である小竹と小梅という双子の老婆。小柄な老婆だが、圧倒的な存在感で田治見家を支配している。野村版では小竹=市原悦子と小梅=山口仁奈子が特殊メイクで同じ顔に見せていたが、市川版では岸田今日子が小竹と小梅の双方を演じ、特撮で同一画面に登場する。市原悦子と岸田今日子…このキャスティングだけでもう怖いのに、不気味な青白いメイクと奇怪な言動でトラウマ必至。特に岸田は声色や微妙な仕草の違いで二人を見事に演じ分け、本作を見終わったほとんどの人が「岸田今日子すげぇ…」と言ってしまうだろう。
 

七の墓「謎解き」
 ミステリー最大の見どころといえば、やはり謎解き。大勢の関係者をなぜか崖などに集め、探偵が一つひとつの殺人について説明しながら「あなたが犯人ですね」と追及するのが常だが、「八つ墓村」はちょっと違う。謎解きの場に犯人がいないという、欠席裁判状態で進行するのだ。市川版は途中で場を移し、犯人を含めた状態で行われるが、野村版は犯人も辰弥もいない場で謎解きをしてしまう。で、そのころ、辰弥と犯人が何をしていたかは観てのお楽しみ!。
 

八の墓「最後に…」
 前述の通り、「八つ墓村」の主人公は金田一ではなく辰弥。そのせいか、辰弥はときに名探偵と化す。田治見家の屋敷には地下の鍾乳洞につながる秘密の抜け道があるのだが、田治見家にやってきたばかりの辰弥がすぐに見付けてしまう。さらに市川版では、20数年間、誰も気付かなかった屏風の中の手がかりも辰弥が見つけ…。また、野村版の謎解きでは金田一が「犯人は○○です」と言うと、警官が「証拠はあるんですか?」と尋ねる。すると金田一は「そんなことよりも、この事件には犯人も知らない不思議な事実があるんですよ…」と別の話を展開。それでいいのか金田一耕助! 

 
 野村版はたたりをベースにしたスプラッター描写満載の伝奇ホラーミステリー。市川版は財産を狙った強欲な犯人と思わせながら、実は純愛ゆえの犯行だったという悲しいミステリー仕立て。同じ素材でも、シェフによってこれだけ違う料理になるという、まさに歴史的な見本。この2本、連続して観ることに意義があるのだ!

竹之内 円(ライター)

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