ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第87弾!! 映画とTVドラマの見比べで、戦後最大の誘拐事件の真実に迫る!

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 “戦後最大の誘拐事件”と称される吉展(よしのぶ)ちゃん事件を描いた映画「一万三千人の容疑者」(’66)の冒頭に目を見張った。当時の東映社長・大川博の名前で、次の文が表記されるのだ。
 
 
 「この映画は日本中を恐怖と
不安のどん底におとしいれた
ある誘拐事件を取扱った
ものです。
あれから一年——
私たちは当時の全国民的
な怒りと悲しみを想起し
あのような痛ましい事件
が二度と起きないよう深い
祈りをこめてこの映画を
作りました」
 

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 東京・台東区で吉展ちゃん(当時4歳)が誘拐されたのが’63年で、犯人・小原保が犯行を自供し、吉展ちゃんの遺体が発見されたのが’65年7月。主任刑事・堀隆次による同名手記をもとに、関川秀雄監督によって映画化されたのが’66年。さすがに国民の記憶に事件が生々しく残っているため、事件関係者はすべて偽名になっているが、この冒頭のメッセージにも表れている通り、当時の映画人の覚悟と志の高さに襟を正したくなる。と同時に、映画が社会の中心にあった時代の空気をまざまざと感じもする。
 

 ただ、映画化を急いだあまり、事件の概要を描くだけにとどまってしまった側面も否めない。そこで13年後、本田靖春著のノンフィクション「誘拐」をもとに、犯人側の視点で事件の真相に迫ったのが恩地日出夫監督によるTVドラマ「戦後最大の誘拐-吉展ちゃん事件-」(’79)だ。映画に引き続き、主任刑事を芦田伸介、犯人の情婦を市原悦子が演じており、映画とTVドラマの両方を観ることで、事件がより立体的に浮かび上がってくる点が興味深い。
 

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 「戦後最大の誘拐-吉展ちゃん事件-」で最も衝撃的なのは、この誘拐事件が無計画な犯行だったということだ。借金の返済に窮していた小原(泉谷しげる)は、当時公開されていた黒澤明監督の「天国と地獄」のポスターを見て誘拐を思い付く。その後、公園で遊んでいた吉展ちゃんに声をかけて犯行に及ぶのだが、その時点では吉展ちゃんの名前も家庭環境も把握していなかった。連絡先を知ったのは後日、新聞に掲載された男児が行方不明になっていることを報じるニュースにて。そこから電話帳で自宅を調べ、身代金を要求する脅迫電話をかけている。当時の警察とマスコミの認識の甘さを実感する部分ではあるが、誘拐事件発覚以降、日本で初めての報道協定が結ばれる。警察とマスコミの情報開示のし烈な攻防戦は、誘拐事件を扱った横山秀夫原作の映画「64-ロクヨン-」(’16)[4月13日金12:30〜他オンエア]でも詳しく描かれている。
 

 また、「一万三千人の容疑者」の方では、吉展ちゃん事件を悲劇的な結末に招いた警察の初動捜査の不備が、苦い経験を得て改善されてきていることが確認できる。例えば、警視庁副総監拉致誘拐事件が起こる映画「踊る大捜査線 THE MOVIE」(’98)で、青島刑事らが身代金の札の番号を控える場面が登場するが、これも吉展ちゃん事件の教訓を生かしてのことだ。
 

 両作を観ると、吉展ちゃん事件が後世に与えた影響がいかに大きかったかが分かる。そして、「あの痛ましい事件が二度と起きないように」という人々の切なる願いは、こうした作品を通して今も受け継がれているのだ。
 

中山治美(映画ライター)

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第86弾!! 観る者の人生を変える超絶マスターピース、「愛のむきだし」が最長版で再降臨!

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 撮影から10年、’09年の初公開から9年――。「愛のむきだし」の衝撃は今も全く色あせていない。世界にその名を轟(とどろ)かせる鬼才・園子温を一躍ブレイクさせた伝説の傑作にして、熱狂的なカルト人気を誇る代表作。’09年のベルリン国際映画祭でカリガリ賞と国際批評家連盟賞を獲得、国内でもスマッシュヒットを飛ばして以降、彼は「冷たい熱帯魚」「恋の罪」「ヒミズ」と目覚ましい快進撃を遂げている。

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   お話は、現代社会の闇と人間の業(ごう)をメガ盛りに乗せて、全力で爆走する異色のボーイ・ミーツ・ガールだ。主人公は神父である父親との愛をこじらせ、クリスチャンにもかかわらず盗撮マニアになった男子高校生・ユウ(西島隆弘)。彼は、カート・コバーンとキリスト以外の男性をすべて嫌悪する女子高生ヨーコ(満島ひかり)に出会い、一目ぼれ。必死にこの運命の純愛を成就させようとするが、そこに新興宗教“ゼロ教会”の幹部を務める怪しげな女、コイケ(安藤サクラ)が現われる……。

 

 劇場版は237分。そこに未公開シーンをふんだんに加えて再構成した約30分×全10話仕立て(計275分)が今回の「愛のむきだし 最長版 THE TV-SHOW」だ。劇場版は長尺を一気に見せるジェットコースタームービー的な怒涛(どとう)感が話題になったが、こちらは当初の脚本に忠実な構成。比較してみると、登場人物の背景がより詳しく掘り下げられている。劇場版が勢いやグルーヴ重視だとしたら、最長版はドラマ性重視。物語の奥行きを堪能させる完全アップデート版だ。
 
 

 最もエピソードが追加されたのは、コイケにまつわるシーン。強圧的な父親(板尾創路)から性的に陵辱されて育ち、その反動で異常な攻撃性を発揮するようになった彼女。ユウもヨーコも親からの愛を満足に得られず、人格形成に歪みを生じさせた子どもだが、コイケが最も激しいネグレクト(児童虐待)の犠牲者だった。彼ら3人は実質的に“孤児”であり、家族の愛を代替する“つながり”を回復させることが人生の希求となる。これは園子温が「愛のむきだし」の前に撮った傑作「紀子の食卓」を受け継ぐもの。テーマ性を深く理解できるのが最長版の最大にして重要な特長だ。
 
 

 当時まだ無名だったキャストは、今から振り返ると奇跡の豪華さ。ダンス・ポップグループ「AAA」の西島隆弘が、ユウ役をみずみずしく熱演。アクロバティックな盗撮パフォーマンスも華麗にこなし、往年の梶芽衣子のキャラクター“女囚さそり”を模した女装姿も披露する。そして、パンチラ…どころかパンツ丸出しで暴れ回るヨーコ役の満島ひかりの鮮烈さ。コイケを怪演する安藤サクラと共に、現在の彼女たちは邦画界をけん引する若手の大女優になった。
 
 

 音楽の使い方も抜群だ。ベートーヴェン交響曲第7番第2楽章、バレエ音楽として知られるラヴェルのボレロに加え、ゆらゆら帝国の名曲「空洞です」が心に刺さる。タランティーノばりの卓抜な構成力で、キム・ギドク顔負けの濃厚な情念を叩きつける、狂おしいほどに切迫したエモーション。未見の人は必ず体験してほしい。これは、観る者の人生を変える超絶のマスターピースなのだから。

森直人(映画評論家)

ぴあ×チャンネルNECO強力コラボ連載第85弾!!健さんの名演に中国全土が震えたアクション大作

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 皆さんはもう、ジョン・ウー監督の最新作「マンハント」(2月9日公開)をご覧になっただろうか。中国の人気俳優チャン・ハンユーふんする国際弁護士が殺人事件の容疑者に仕立て上げられ、それを福山雅治演じる敏腕刑事が追う。大阪を中心に全編日本ロケを敢行、白い鳩が舞い、スローモーションで二人のアクロバティックなガンアクションがさく裂! 全世界のファン待望の、ウー印の“活劇祭り”である。

 

 ところで、昨年のヴェネチア国際映画祭の会見にて、ジョン・ウーは本作についてこう語った。「永遠の憧(あこが)れであり、偉大なる俳優、健さんにこの映画を捧げたい」。“健さん”とは無論、不世出の大スター・高倉健のこと。「マンハント」は、’76年に健さんが東映独立後に初主演した「君よ憤怒(ふんど)の河を渉れ」の再映画化なのだ。
 

 
 西村寿行の同名ハードボイルド小説をもとにしたこのリベンジ・アクション大作で、健さんは、変死した代議士を他殺の線で単独捜査していた折に突如、強盗傷害容疑で連行されるエリート検事の役。その検事を執拗に追うも、途中で彼の無実を知って手助けする刑事を原田芳雄が演じている(「マンハント」では福山雅治の役に該当)。監督は、東映時代から「荒野の渡世人」(’68)、「ゴルゴ13」(’73)、「新幹線大爆破」(’75)などで健さんとタッグを組んできた佐藤純彌。二人はほぼ同時期にフリーとなり、この「君よ憤怒の河を渉れ」の後には角川映画「野性の証明」(’78)も共にしている。
 
 

 さらに本作は、大映の名物社長であった永田雅一が“永田プロダクション”を興して製作を担当、さらに(’71年末に倒産した大映の経営を引き受けた)徳間書店創業社長・徳間康快が製作協力に名を連ね、松竹が配給するという座組のもと、公開された。健さんは「新幹線大爆破」に続いて従来の任侠路線のイメージから脱却すべく、ワナにはめられ、無実の罪をかぶせられて、逃走しつつ真犯人を捜す役に入魂で身を投じている。
 
 

 洋画のスケール感に対抗しようと、次から次へと主人公が窮地に陥り、(無理やりにでも…)見せ場が用意されており、その少々背伸びをしたエンターテイメント志向がいま観ると微笑ましい。(着ぐるみとわかってしまう…)熊に襲われるのはご愛嬌(あいきょう)だが、新宿の雑踏を無数の馬(こちらは本物!)が疾走する場面には度肝を抜かれ、潜入した精神病院で患者衣を身に付け、黒幕を追い詰めるため“一芝居”打って出るシーンでは「健さん、よくぞそこまで…」という名演を見せる。
 
 

 さて、当時“イケイケ”だった徳間康快は、’78年10月、中国の8都市で「日本映画祭」を自費で開催し、本作も上映。選んだ作品は各地へと配給、一般公開もされた。中でも、本作は「追捕」のタイトルで“プロレタリア文化大革命”後、初の外国映画として公開され、エンターテイメントに飢えていた人々の心をつかみ、一大“高倉健ブーム”を巻き起こして国民的大ヒットにつながったのだ! 無論、ジョン・ウーの新作「マンハント」の原題も「追捕」。文化の伝播(でんぱ)とは、実に面白いものである。

轟夕起夫(映画評論家)

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